「手を止めずに書くことが苦手」
「伝えたいことを上手く文章にまとめられない」
「無難な文章しか書けず、自分の言葉で文章を書けたような気がしない」
今回はこのような悩みを持つ方に向けて、『自分の「声」で書く技術―自己検閲をはずし、響く言葉を仲間と見つける』という本を紹介したいと思います。
本書は一言で言えば、「書けない」という悩みを解消してくれる本です。
特に「手を止めずに書く」ことがどうしても苦手な方は、悩みを解決してくれる具体策が学べると思います。
それでは、詳しく紹介していきます。
本書の概要
書誌情報
出版社 | 英治出版 |
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発売日 | 2024年2月18日 |
著者 | ピーター・エルボウ (著), 岩谷聡徳 (監修), 月谷真紀 (翻訳) |
ページ数 | 288頁 |
大まかな構成・コンセプト
本書は全5章+補講で構成されており、大きく2つのテーマに分かれています。
1章〜3章:個人練習(フリーライティング,グローイング,クッキング)
4章〜5章:グループセッション
書評
「自己検閲」を解放する「フリーライティング」
書くことに対する「自己検閲」
本書は冒頭で、「話すこと」と「書くこと」の違いを説明しています。
「話すこと」は、相手が目の前にいて長く考える時間はないので、思い切って言葉を出していかざるを得ないことが多い。
他方、「書くこと」は、言葉を編集できてしまう。
もちろん、最終的に完成度の高い文章を作るためには、編集は絶対に必要。
本書が問題としているのは、「言葉を生み出すのと同時に編集してしまうこと」、すなわち「書くことに対する自己検閲」です。
書くのが遅くなるだけでなく、自分本来の言葉選びや文章のリズム感が消されてしまう、と本書は指摘しています。
フリーライティングとは?
「10分間(※)、絶対に手を止めずに思ったままに書く」
(※)慣れたら時間を延ばしてもOK
書いている間は一切編集しないことで、「言葉を生み出すのと同時に編集してしまう」癖を治します。
しかし、「フリーライティング」は、ただの癖を治す練習法にとどまりません。
本書では、ライティングは「考えてから書くもの」ではなく、「書きながら成長させて完成度を高めていくもの」だと述べられています。
「フリーライティング」で大量の文書を生み出すことは、2章「グローイング」や3章「クッキング」を経て、真に優れた文章を完成させるために不可欠の作業ということです。
ここで、本書の表現を引用しましょう。
『書いた文章の多く、ないしほとんどは、念入りに書き直しを重ねて書ける文章に比べてずっと出来が悪いだろう。だが、優れている箇所は、他の方法で生み出せるどんな文章より、はるかに良い物になるだろう。』
ピーター・エルボウ; 岩谷聡徳. 自分の「声」で書く技術――自己検閲をはずし、響く言葉を仲間と見つける (p.58). 英治出版株式会社.
『たくさん書いてたくさん捨てるという、とりとめのないプロセス──これは一見すると非効率に思えるが、実は効率が良い。真に言いたいことと、それを表現する言葉にたどり着くにはベストな方法』
同上 (p.66)
難解な「グローイング」と「クッキング」
総論
1章「フリーライティング」は、具体的で分かりやすく、読んだ瞬間からすぐに取り入れられそうだと感じました。
しかし、2章「グローイング」と3章「クッキング」は、抽象的な解説や例え話が多いのでやや難解です。
私なりの理解を要約すると、次のような感じです。
・「フリーライティング」は自己検閲を外して思うがまま書くことで、いわば思考を拡散させている。
→これだけでは、整理された完成度の高い文章には到達できない。
・大量に生み出された言葉から、大きな方向性を選んで成長(グローイング)させ、構成や表現を美味しく料理(クッキング)することで、思考を収束させる。
→整理された完成度の高い文章に到達するために必要不可欠。
2章「グローイング」
「フリーライティング」で大量に生み出された言葉から、自分が特に伝えたいこと、すなわち文章の大きな方向性を選んで成長させる段階です。
例えば、フリーライティングで生み出された言葉から、特に気になった1つのテーマを掘り下げるために、2回目のフリーライティングを行ってみます。
これらを数回繰り返すことで、フリーライティングをしなければ決して到達できなかった、「本当に伝えたいテーマ」が見つかる、これが「グローイング」のイメージです。
3章「クッキング」
素材(文章)の構成や表現をブラッシュアップして、「美味しく料理」する段階です。
全体的に抽象的な説明が多いのですが、本書から最も分かりやすい一文を引用しましょう。
『クッキングとは、素材に相互作用させること。私にとっていちばん大事な相互作用は、書き出すことと要約すること(言葉を軸に取り組む作業と、意味を軸に取り組む作業)の相互作用だ。』
ピーター・エルボウ; 岩谷聡徳. 『自分の「声」で書く技術――自己検閲をはずし、響く言葉を仲間と見つける』(128頁).英治出版株式会社
私の理解としては、次のようなイメージです。
「枝と幹を作ったり削除したりして、論理構造を緻密にする作業」
「抽象化と具体化の往復」
例えば、フリーライティングで大量に書かれた素材を眺めながら、次のようなことを考えるイメージです。
4章以降(グループセッション)は個人的には参考にならず
4章以降は、グループセッションによって文章力を向上させる手法が紹介されています。
ただ正直、個人的には有益と思える箇所があまり無かったです。
「グループセッションを求めていない」というのもありますが、「何が書かれているのか良くわからず、どんどんページを送っていたら終わった」という感じです。
グループでの訓練を求めていない方であれば、4章以降は読まなくても特段支障なしと思われます。
まとめ:自分の「声」で書く技術
・「フリーライティング」により、書くことの「自己検閲」を解放できる。
・「フリーライティング」は、最終的に優れた文章を書く最も効率の良い手法。
・「グローイング」と「クッキング」は、やや抽象的な話が多く難解。
・4章以降は、グループで訓練しない人にとっては有益な情報が少ないかも。
2章以降で急に分かりづらくなったのは少し残念ですが、1章が強烈に刺さっただけでも買ってよかったです。
2章「グローイング」と3章「クッキング」は、時間が経ってから読み返すと新しい発見がありそうで期待しています。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!